LLR単独ライブ『銀色のシーズン』人形劇としての漫才

さてさて、オリエリタリのカガリさんにチケットを譲って頂き、2/6/2010、草月ホールに行ってきましたよ。LLRの単独ライブ。

銀色のシーズンに関しては予習ゼロで行って参りました。さっき検索したら、田中麗奈の出てた映画か。把握しましたw
さてさて面白かったよー。とても好きな感じでした。LLRのネタはほぼ漫才しか見たことなかったんだけど、やっぱり彼らくらいの世代はコントをやっても面白い。いつもやってるのがなにせ、漫才コントですものね。案外差がないように思います。チーモンの時にも言いがちですが、コントもかなり良かったです。と、前置きはさておき。
(これから書くのはいわゆるレポというより、私の分析なので、苦手な人はスルーしてくださいねーw)

LLRの漫才は私が好きな、東京の無限大周辺の芸人さんのネタのタイプだなあと思ったのです。つまりはネタを作る際に漫才ならば漫才を、コントならばコントの構造を分析するタイプのネタなのですね。(ちなみに私の中で脱構築ネタの最も典型的で鮮やかな例はライスだと思ってます。)LLRは以前書いたように、ネタのテーマは身近なことで比較的ジェネレーションを限定するマイクロポップであるわけですが、(解説付きで見るM-1予選3回戦:LLRのマイクロポップワールド)その大前提であるネタの構造はかなり分析をした上で作られている。つまり非常に批判的で脱構築的なタイプのネタ作りをしてたわけです。言うなれば、マイクロポップな感性が、非常に知的でしっかりした分析的なネタ構造に乗っかっている訳です。今回のライブはそういった例を挙げれば枚挙に暇がないっていう感じで、とても刺激的でしたね。そして彼らのネタは彼ら自身が「練習しない方がいい」とのたまった通り、確かにある種の不器用さが面白さを補強しているように思いました。

とりあえずネタ順をざーっと書いて、後で細かく論じます。
前説:かたつむり
1. サッカーの11人抜きがしたいよby伊藤: 漫才
2. 桃太郎がやりたいよ(配役振り分けしようぜ。)by福田:漫才
3. 鏡の世界(世界で一番きれいなのはだーれ?): コント
4. ブリッジ映像:福田金融道(ライス田所、ミルククラウン竹内、ロシアンモンキー中須
5. 映画を見たよ(トトロじゃない!): 漫才
6. ブリッジから伊藤作コントへ (ピーターパンじゃなくてピーターご飯)
7. ブリッジ:でぶと遊ぼう(坂道:野球、だるまさんが転んだ編)
8. 韓国ドラマっぽい漫才
9. ブリッジ:でぶと遊ぼう(おにぎりをあげて遊ぶ。相撲編)
10. ギネス(円周率暗唱に挑戦): コント
11. ブリッジ: 伊藤がジャングルポケットを和ませに行く
12. 伊藤はしゃべらないほうがいい: 漫才
13. ブリッジ:Easy福田(ビリヤードの難技を決めて決め台詞「イージーだね。」)
14. 地獄の下位打線(8期とのユニットコント、芸人をやめたいという彼らに!:セブンbyセブン玉城、こりゃめでてーな広大、長崎邸キヨちゃんぽんVSパンサー)
15. エンディングトーク: 練習はしないほうがいいな

ではでは特に気になったネタについてまず書きます!


2番目の桃太郎のネタは目のつけどころがニッチでしたね。なにせ手あかのつきまくってたネタです、どう料理してくれるのか、期待は高まります。わりと変な目のつけどころのネタをやることの多いLLRですから、普通なわけないよなーと思ってましたがさすがの出来でした。
桃太郎をやってみるという漫才コントを分解して、最初の部分、「おれがこれやるからあれやって」という役を振り分けるところを膨らませていたんです。漫才コントってのはまず設定を作り役を振り分けるといのが大前提になってますから、そこの構造を脱構築してネタを作ってたんですね。しかも役を振り分けるという、いわゆる漫才コントでは見ることのできないネタ作りの過程をも作品に取り込んでいる。これはM-1向けのミニマルでスピ−ディーな漫才であったら、真っ先にそぎ落とされる部分ではないでしょうか?単独という舞台で、しかも長めにネタをやってしまうLLRならではのネタ構造でとても素晴らしかった。
では細部について書いてみます。普通だったら桃太郎をやるとなったら、そのフリをした本人が主役である桃太郎をやるのが定石で、そのまま進むはずです。ところが、順番に役をふっていくところで、福田氏が選ぶのは「猿、きびだんご、姫(いたか?)語り部、鬼」と変なものばかり。あれあれと思う内に伊藤氏がメインキャラクターを演じ、福田氏は余り物的なキャラのみを選びます。「桃太郎二巡目まで残ってるかと思ったー。」とかいいつつ。
ところで、実はこの配役通り演じると、前半は伊藤氏ばっかり、後半は福田氏ばっかりになります。福田氏の策略通り伊藤氏は前半いろいろやって、舞台を動き回りしっちゃかめっちゃかに桃太郎をなんとか基本に忠実にストーリー通り演じますが、後半は福田氏のターンなので、福田氏が勝手に書き換えてしまいます。後半でいわゆる物語も解体されて、独自なものへと変化させられてしまい、新福田版桃太郎になるわけです。主演は猿で、オリジナルキャラの姫は意に染まぬ結婚を強いられていたので、それを助け出した鬼と実は愛し合っていた。鬼は悪いものと決めつけていた前提が覆され、勧善懲悪的な昔話が否定されるわけです。ここらで、鬼と姫を福田氏ならではのへんな高い声で演じていておかしかったなw(高い声好きですー。参考:チーモン白井氏w)
とはいえ、こういう有名なお話の再解釈自体は、小説や演劇ではよくある手法なので、さほど新しいとは言えないとは思いますが、今回は実際の演技の手前のところ、配役の部分を見せたところがさらに面白くさせていましたね。
最近、それこそtwitterなどが流行っていることも影響してか、何かの商品やプロジェクトを提示する場合に、必ずしも完全に出来上がった完成品を見せる必要がなくなり、その制作の過程を提示し、様々な意見をあおぎ、完成形に到達するというものが多くなってきています。こういったアプローチは商品などに関してはありますが、物語を作る過程自体を作品化するというのは、なかなか興味深いし、とても現在的だと思います。(過程をアートにするというのは、まあ実は結構前からありますが。抽象表現主義画家であるポロックのアクション絵画とか、パフォーマンスとかね。)
最近神保町花月で、カリカ家城氏が「私と物語」と称して、ストーリーの作り方について話すというトークライブがあったようですが、これも過程を見せるという一つの作品ですね。私は行ってはいないので詳しくは分かりませんが、やはりこれはある種の舞台裏のトークであり、そのトーク自体を作品と見なすのは少し違うような気もしますので、やや意味合いは違ってきます。とはいえ、制作過程自体を作品として提示するというあり方の一例ではありますし、非常に近い位置にある芸人がそういう試みをしているという意味では記憶にとどめておいてもいいかもしれません。
LLRに話を戻しましょう。このネタは前半は福田氏に操られる伊藤氏の出番(人形劇のよう!)、後半は福田氏の独壇場で物語が勝手に編み変えられる、という作りが実にLLRを典型的に示していて、まさに本領発揮なネタでめちゃくちゃ面白かったです。このLLRにおける福田氏と伊藤氏の関係性が、人形遣いと人形(でも生きているし、意思もある。)であるというのが、実に面白い点で、まさにLLR!!!という感じで大変面白かったです。さてさて、この人形遣いと人形という関係性、漫才における人形劇の要素っていうのは何なのか。これはまた次に書きます。


12のネタ「伊藤はしゃべらない方がいい」で、「桃太郎」でうっすら感じつつあった、LLRの漫才の本質とは生きた人間を使った人形劇なのだ!というのがはっきりと分かります。
このネタは福田氏が「おまえ動きとかいいよ。だからしゃべらないほうがいいな。」というネタフリをして始まります。伊藤氏は「動きももっちゃりしてるって言われるけど。」とぼやきつつも、素直に福田氏の言うことに従います。ここからうれしそうに福田氏は一人二役の吹き替え漫才を始めます。伊藤氏の声をやるときは若干顎をしゃくれさせて、くぐもった声に変えて、ピンマイクに口を近づけてへんてこりんで似ても似つかないキャラで演じます。このキャラが変だし、伊藤氏が無茶ぶりの連発で、必死になっているのがとってもおかしいのです。伊藤氏を泳がせて、サンパチマイクから少しはなれた所に行かせたところで、つっこみの台詞を言って、伊藤氏は息を切らせて戻ってくることになったりw 翻弄される様がおかしいし、普段のLLRの関係性ってこうなのだろうな、福田氏が考える悪ふざけに伊藤氏が全力でのっかって、ぼやきつつも二人でふざけて遊ぶのが本当に楽しいのだろうなと感じさせてくれるネタで、なんだか微笑ましくもあり、おかしくもありとても良かった。
人形劇的ではありつつも、あくまでも伊藤氏が生き生きと動き、本人の意思で楽しんでるところがたのしくて、いわゆる人形劇ではない、コミュニケーションを前提とした漫才を成立させているところですね。あやつっているようでいて、二人はコミュニケーションをとっていて、実は一方通行ではない。そしてそこが仲の良さと信頼感を感じさせてくれて、とても温かいところでもあります。
とはいえ、こういうボケがツッコミを翻弄しまくる構造自体は漫才の基本形ですよね。LLRはそれを純粋に膨らませて、そして突き詰めてこういう片方がしゃべらない漫才という、ある種の漫才のアンチテーゼのようなネタを作りあげてしまっているところが、なかなか冒険していて面白かったです。
ちなみに、こういうボケがツッコミに無茶ぶりをしまくって、操るというネタはチーモンチョーチュウにもありますね。去年漫才ツアーでよくやっていた、「おもちゃがもし動きだしたら?」というネタも白井氏がおもちゃである菊地氏に、「あ、○○だー」おもちゃの種類を指示して、菊地氏が「そうだよ!」とか言いながら、そのおもちゃの形態模写をそれはもう巧みにやるというネタでした。一見似ているところもありますが、チーモンのネタはわりとスタンダードなボケがツッコミを翻弄するというフォーマットでしたし、菊地氏がとても達者なので翻弄はされていても、操られているという感じではなかったので、かなりLLRとは違います。LLRは翻弄から一歩進めて、人形を操る、「操演」という構造に変化させていました。これはLLRというコンビにおいて、伊藤氏があえて福田に主導権を委ね、ぽんこつを演じているからこそ、成立するネタで、とても彼らのキャラクターにあっていた上に、とても良く練られていて本当にすばらしかったです。
漫才は会話で成立するという前提を分解し、あえて会話を捨てるという漫才のアンチテーゼにもなっていて、それなのに漫才コントのような最近のはやりのスタイルでもなく、LLR独自のものになっていて、なんとも素晴らしい。そして漫才は会話というスタイルを捨て去ってみれば、おのずと漫才を成立させるその他の要素に注目せざるを得なくなります。そこで、LLRはボケがつっこみを翻弄するというその部分のみを強化することを選択し、実に鮮やかなネタをやってのけていた。舌を巻きましたね。ほんと。
そして、ボケがツッコミを翻弄するというそのことは、ある種人形劇のような構造に集約していくのですね。しかし人形劇と言っても、伊藤氏も文句を言ったりするので、そこが笑いどころにもなっていておもしろかった。文句を言うことで、人形劇の人形のつらさをも見せちゃってるわけですよね。人形って案外大変なんだなあという。
というわけでこのネタは、漫才の解体、人形劇という要素の抽出、そして実はそれが人形劇の批評にすらなっているという点で、何重にも批評精神がはりめぐらされた、ネタ自体が漫才や人形劇などの構造を批評してしまう、本当に良くできた素晴らしいネタでした。
まだまだ書き残したことがあるかもしれないと、思わせてくれる素晴らしさ。あー、本当にいいものを見ました。またどこかでやってくれるでしょうか?ショートバージョンなら見られるかもですね。また是非見たいです!


さてさて、こんな素晴らしいネタを見せてくれたLLRですが、最後に問題発言をしてました。二人とも口を揃えて 「練習しない方がいいな」なんてw
とはいうものの、ネタ合わせしてるはずなのに、人形劇っぽいネタでは、伊藤氏が今がまるで初めてのように、福田氏の指示にワンテンポ遅れて動くのがすごくリアルで、むしろそこが良かった。これはただもっちゃりしているだけなのか、演技力がすごいのか、それとも練習をあまりしてないから初回のように翻弄されることができているからなのか、不明ではありますがw。個人的にはあんまり練習していないから、あのネタのフレッシュさが出たのかなと思います。ということは、本当にLLRは練習をしないほうがいいのかもしれないですね。彼らの個性が過程を見せることにもあるとするならば、練習途中のレベルで見せるくらいがちょうどいいのかもしれない。
例えばM-1の様な賞レースでは磨き抜かれ、洗練された技術が(特に最近は)求められているようなので、練習することが必要ですが、もう一方で、未熟であるとか荒削りなほうが面白いというものも存在している訳です。そして、LLRは普段やっているAge Age Liveでアドリブでネタ時間のオーバー常連であることからも分かるように、ある種の洗練よりも悪ふざけとか自由さとかを志向していて、それが彼らの面白さや味になっています。ということは、彼らはもしかしたらM-1とは違う方向を向いた面白さの獲得をしつつあるのかもしれませんね。まあでも、M-1以前のベテランさんの漫才というのは、同じネタを洗練させていくと同時に、毎回客層にあわせたアドリブや、その時々の時事ネタなどをふんだんに取り混ぜながらやるのですから、LLRの方向性というのは、ある種の古典回帰でもあるのかもしれません。洗練と毎回の遊びのバランスが、やや後者に傾いているところが、LLRの面白さであり、そしてM-1に関して言えば弱点であると言えるかもしれませんね。やはり島田紳介が言うように、M-1にはとり方がある。というか、審査員の思うM-1王者とは、漫才という型の洗練を極めたものであるのでしょう。そして、私は何度も言いますが、M-1の審査の限界はそこにある、と思います。やっぱり私はLLRのことが面白いと思いますし、まあM-1的には今のスタイルでは難しいとは思いますが、ああどうかそのきらきらした個性を捨てないで、と願っています。並行して何か別のをやるのならいいと思いますけどね。

ふうふう、息切れしてきました。一番書きたかったことは以上のようなことなので、一度筆を置きます。こまかなブリッジとか他のネタに対するゆるーい感想はまた、もしかしたら書きます!

とりあえず、漫才を批評し、人形劇の要素まで取り込んだLLRは本当にすごいし、やっぱり私彼らを大好き!になっちゃった!みたいですw