ブロードキャスト:物語の消失?☆

ブロードキャストは面白いけど、なんだかネタの内容が記憶に残らない。楽しい二人だったなーうまいなーと、そればかりが鮮烈に記憶に残るんです。私にそんな不思議なお笑い鑑賞体験をさせてくれて、なんだかチーモンとずいぶん違うなあと思います。結構好きなのになんだか不思議なコンビ。ものすごくスピード感もあって達者で、おそらく去年のM-1のスピード感重視という流れが続くのであれば、かなり有望視されると勝手に思ってます。シチサンの企画もいいし。なのにほんの少し違和感があるんです。よかれあしかれ。
(ちなみに私が気に入ってるシチサンライブは、チーモンは言わずもがなですが、順番にライス、ブロキャス、LLR、アームストロングがMCの回なのです。この辺は見ないと!って思ってます。)

どなたかのブログで拝見したのですが、(引用できずにすいません)ブロードキャストのネタ作りは、吉村氏がノートに書きためたボケを組み合わせて一本のネタとして作り上げるとか。つまりは、細かな素材をつなぎ合わせて一つの作品として編みあげるわけですね。だからでしょうか、一応ネタの枕とか、流れとかがあるのにもかかわらず、ネタを見終わったあとに一つの全体像が結ばれず、物語が記憶に残らない。漫才という構造を崩して再構築するというよりむしろ、そもそも中身である漫才のネタ内容自体がばらばらのパーツからできていて、それを演じるキャラクターである吉村氏と房野氏のキャラクターの存在感がかろうじてネタをつないでいる。そういう漫才なわけです。しずるや、チーモン、ライスなんかは、笑いの構造を脱構築し再構築してはいるけれど、明確な設定があり、物語があるわけです。ところが、ブロキャスは物語が脱構築され、ばらばらなわけです。そして細切れになっているからこそ、たたみかけても、ストーリーについていけないという事態は起き得ない。そもそもないに等しいわけですから。そして明確な一つの全体があるわけではないので、ありネタの要素を組み変えてまた違う形に再制作するのも可能なわけです。笑い一つとっても脱構築の仕方が色々あるんだなと興味深く思っています。
ただ、私はやはり旧式な人間なので、美しく描かれた物語が大好きなんですよね。なのでブロキャスは括弧付きで好きな感じです。
ブロキャスの最近のネタを一応のせておきます。

さてさて2008年度M-1チャンプのNON STYLEも細かいボケが多くてネタが細切れな印象がありました。とくにモモたたきが全体の流れを毎回分断しており、ネタの細分化を特に印象づけていました。とはいえ、設定はしっかりしていたおかげで、辛うじて「溺れた少年を助ける」など物語は成立していました。彼らの漫才はボケが自分につっこんでいて、ボケと突っ込みという役割も従来のものから逸脱しており、脱構築されていたと言えるでしょう。つまり漫才の構造上での脱構築と物語の細分化つまりは内容の脱構築という脱構築の両方を併せ持っていたといえるのではないでしょうか。

石田氏は「あえて漫才を下手にしてテンポも悪くしたんです。」と言っていますが、テンポというよりも物語の語りの流れを悪くさせるということと私は思っています。その戦略が功を奏して優勝したんでしょうね。
http://nonstyleshiro.laff.jp/blog/2008/12/post-2a0f.html
そしておそらく物語の流れの悪さ、そういうところが、彼らにたいする好き嫌いを分けたのだとも思います。

さてさて、今年は果たして漫才の脱構築の方向性のどちらに傾くでしょうか。物語性が消失し、細分化したスピード感のあるネタが有利になるか、それとも物語が復権し、物語の枠組みの脱構築が重要になるか。気になるところです。あるいは全く違う方向性へ向かうだろうか。全く物語りもなくキャラだけたった漫才とか?でもそれだと今のショートネタブームのまんまだし。伝統?あるM-1がそう安直にキャラネタを賞賛するとも思えないし。うーん。

個人的には今最も人気があるオードリーのネタはスピード感があっても、あまり細切れ感がなく、かなり物語がしっかり成立してたなと思っているので、やはり物語が復権するんじゃないかなと思います。しかも彼らは物語を必要としないくらいのキャラも持っている。なんて強力なんだろうと思います。でも、物語自体は比較的よくある設定、そして流れだと思います。それこそがおそらく大衆人気を獲得させた要因なのではないでしょうか。

オードリー人気の要因がキャラクターとネタの物語性だとしたら、チーモンの詩情豊かなネタはいいんじゃないかなーと思うんですけどもね。果たしてどちらの方向にいくか気になるところですが、チーモンびいきなものでなんとか物語が復権することを期待します。まあオードリー人気は敗者への判官びいきって気もしますけど。
ただね、チーモンの物語が閉じないところ、つまりはオチが弱いところは物語好きにとってはちょっと気になるところかもしれません。普段のネタとしてはいいんだけど、賞レース向けにはおそらくきれのいいオチがいると思うので。

さてさて大分はやいですが、今年のM-1はどうなることやら。チーモンの調子が上向いてきたのもあって考えてしまいました。